「計算機自然は,人と機械,物質と実質の間に多様な選択肢を示す」
落合陽一准教授が主宰するデジタルネイチャー研究室は,ユビキタスコンピューティングの先に「計算機自然(Digital Nature)」の到来を見据えています.計算機自然では,人と機械,物質世界(Material World)と実質世界(Virtual World)の間に,今までの工業化社会よりも多様な未来の形が起こりうると考えられます.本研究室は,そういった物質性と実質性の間で,計算機応用のもたらす様々な選択肢を想定し,それらを計算機科学的に実装することで,産業・学問・芸術に至る様々な問題解決に挑戦し,人・計算機・自然における新たな文化的価値の創成を目指します.

「計算機自然(Digital Nature)」
ユビキタスコンピューティングの世界にもたらされる新たな自然観として,我々はデジタルネイチャーという環境を考えます.これはコンピュータと非コンピュータリソースが親和することで再構築される新たな自然環境であり,人・モノ・自然・計算機・データが接続され脱構築された新しい自然です.そこでは,あらゆるものがコンピュータの下,コードによって記述され,物質(Material)と実質(Virtual)の間にさまざまな選択肢(Alternatives)を示すようになるだろうと考えています.過去の工業化社会にくらべ,本質(Computational Model)の周囲に人にとってのさまざまな価値を様々な形態で示すようになる.それを実装し,デジタルネイチャーにおける文化を考えるために,計算機科学,物理学,生物,波動工学,材料科学,インタラクション,ユーザビリティ,芸術表現, デザインにまたがった学際的領域を探求します.それによって,デジタルネイチャー時代の計算機環境,計算機文化とそれに関わる要素技術を開発し,哲学し,検証することを目的としています.

「計算機生成場(Computational Fields)」
本研究室のメインテーマのひとつは計算機によって生成された物理場について扱うことです.20年来,実世界志向インターフェースの研究パラダイムはアトムとビット,実体と仮想データに二分法に基づいたものでした.そこに対して,物理実体とデータの中間生成物として「場」を定義し,ライトフィールド,音響場,磁場などの物理場や,人間,アナログ実体なども「場」で捉えるために,理論モデルや実装を実現させていきます.この取り組みによって,異なった物理場に共通の知見を,情報科学の立場から探求していくことを目的としています. また,それによって20世紀のマルチメディア環境のもたらした光と音によって作られる映像ディスプレイ環境の進歩を促すことも目的としています.

「生的計算機(Protein Computer / Mediated Human)」
本研究室のメインテーマのひとつはコンピュータでどうやって人間や生物を制御していくのかを探求することです.本質的に情報処理を行っている生物(タンパク式コンピュータ)と現行コンピュータ(電子式コンピュータ)の間の協調を考えることは計算機自然の環境を考えることにつながります.人と自然とコンピュータの新たな関係性をつくるため,人にエンターテイメントを促すコンピュータや人の身体運動を制御するコンピュータ,他の生き物を制御し,計算機生態系の一部へと組み込んでいきます.

「計算機物質(Computational Material)」
本研究室のメインテーマのひとつはコンピュータによって計算され,設計された素材をつくること,そしてコンピュータによって物理的な素材の性質を動的に制御し新しいインターフェースとしていくことです.計算機によって素材が生み出され,計算機によって動的に制御され,計算機によって次の素材へとリサイクルされていくことで,生態系の中に物質循環と物質を中心としたプラットフォームが形成されます.